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モーターに使う磁石の違いとは

モーターに使う磁石は、ネオジム、フェライト、サマリウムコバルトなど、種類ごとに磁力、耐熱温度、密度、耐食性が異なります。磁石が変わると、同じ外形のモーターでも、トルク、サイズ、効率、使用できる温度、コストが変わります。

本記事は、機器にモーターを組み込む設計担当者に向けて、磁石の違いがモーターの仕様に与える影響を整理した記事です。比較に使う数値は、磁石メーカーが公開するカタログ値です。等級や製造元によって値は変わります。

数値の出典は、磁石メーカーの資料、JST(科学技術振興機構)の発表、モーターメーカーや研究機関の技術資料です。各所に出典を記載しています。

モーターに使われる磁石にはどんな種類がある?

永久磁石を使うモーターの代表例は、ローターに永久磁石を配置するPMモーターと、ブラシ付きDCモーターです。永久磁石モーターなどに使われる代表的な磁石材料には、ネオジム、フェライト、サマリウムコバルト、アルニコなどがあります。本記事では、この4種類を比較します。

ネオジム磁石

ネオジム磁石は、ネオジム・鉄・ホウ素(Nd-Fe-B)を主成分とする希土類磁石です。マグファインの比較表では、最大エネルギー積(BH)maxが260kJ/m³以上、残留磁束密度Brが1.26T以上と記載されています。どちらも、この記事で比べる4種のなかで最も大きい値です。

ネオマグの解説は、現存する磁石のなかでも特に強力と説明しています。コトバンクの「希土類磁石」の解説が挙げる用途は、ハイブリッド車・電気自動車の駆動モーターと、電動パワーステアリングです。ジェイテクトの技術資料にも、高出力・高耐熱が求められる場合に、焼結磁石(ネオジム鉄ボロン)を使うモーターを選ぶという記載があります。

弱点は温度と錆びです。上限工作耐熱温度は、マグファインの代表値で80℃です。ネオマグの解説では、錆びに弱いため、市場に出回る製品の多くにメッキ加工が施されています。

高温で使う場合は、ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)などの重希土類で保磁力を高めます。マグファインの比較表には耐熱ネオジムの例もあり、上限工作耐熱温度は150℃、保磁力iHcは1592kA/m以上です。標準品(955kA/m以上)の約1.7倍にあたります。

引用元:株式会社マグファイン「磁石の特性比較について」 https://www.magfine.co.jp/jpn/c_magnet/comparison.html

引用元:ネオマグ「種類によって変わる磁石の特徴とその用途について」 https://www.neomag.jp/mag_navi/column/column002.html

引用元:コトバンク「希土類磁石」 https://kotobank.jp/word/%E5%B8%8C%E5%9C%9F%E9%A1%9E%E7%A3%81%E7%9F%B3-161497

引用元:JTEKT ENGINEERING JOURNAL「レアアースの使用を抑えた重希土類フリーモータの開発」 https://www.jtekt.co.jp/engineering-journal/assets/1017/1017_10.pdf

フェライト磁石

フェライト磁石の残留磁束密度は0.385Tで、ネオジム磁石(1.26T以上)の約3分の1です。(BH)maxは27.9kJ/m³以上で、ネオジム磁石と比べると約9.3倍の差があります。日立金属の研究者による資料にも、フェライト磁石の最大磁気エネルギー積は、ネオジム磁石の10%程度との記載があります。

主成分は酸化鉄です。ネオマグの解説では、酸化鉄が主成分のため安価に製造でき、錆びにも強いとされています。上限工作耐熱温度は300℃、密度は4.8〜5.0g/cm³です。ネオマグは、用途の例として、スピーカー、ヘッドホン、テレビ、ゲーム機、パソコンを挙げています。

引用元:ネオマグ「種類によって変わる磁石の特徴とその用途について」 https://www.neomag.jp/mag_navi/column/column002.html

引用元:株式会社マグファイン「磁石の特性比較について」 https://www.magfine.co.jp/jpn/c_magnet/comparison.html

サマリウムコバルト磁石

サマリウムコバルト磁石は、ネオジム磁石と同じ希土類磁石です。マグファインの比較表では、保磁力iHcが1190kA/m以上で、標準のネオジム磁石(955kA/m以上)を上回ります。上限工作耐熱温度は200℃で、ネオジム磁石(80℃)の2.5倍です。

(BH)maxは140kJ/m³以上で、ネオジム磁石の約半分です。密度は8.3g/cm³と、4種のなかで最も大きくなります。ネオマグの解説では、ネオジム磁石より脆く欠けやすい点が弱点です。用途の例は、センサー、精密電子機器、医療機器です。

上限温度は、資料によって値が異なります。採用を検討する等級のデータシートで直接確認しましょう。

引用元:株式会社マグファイン「磁石の特性比較について」 https://www.magfine.co.jp/jpn/c_magnet/comparison.html

その他の磁石

その他の代表例が、アルミニウム、ニッケル、コバルトを主成分とするアルニコ磁石です。マグファインの比較表では、残留磁束密度が1.25T以上でネオジム磁石に近い値です。上限工作耐熱温度は400℃、キュリー温度は850℃で、4種のなかで最も高くなります。

保磁力iHcは47.7kA/m以上で、ネオジム磁石の約20分の1です。ネオマグの解説は、外部の磁場の影響を受けやすく、減磁しやすい磁石と説明しています。用途の例は、メーターや計器類です。

モーターの磁石が違うと何が変わる?

磁石の違いは、モーターの5つの仕様に表れます。トルク・出力、サイズ、効率、使用できる温度範囲、コストです。設計の段階では、5つのうちどれを優先するかで、候補になる磁石が変わります。

トルク・出力が変わる

モーターのトルクは、磁石がつくる磁束と電流の積で決まります。三菱電機技報(2009年)も、トルクを鎖交磁束と電流の積で表した記述です。日立評論(2015年)の図には、出力が磁束と電流の積に比例し、磁束は磁石の強さと空隙の面積に比例すると示されています。

磁石が強いほど、同じ電流で得られるトルクは大きくなります。同じ外形のモーターでより大きなトルクを求める場合は、(BH)maxや残留磁束密度が高い磁石が候補です。

出力は、トルクと回転速度の積です。トルク0.5N·m、回転数3000min⁻¹のとき、出力は約157Wになります。磁石の磁力が低くてトルクが不足する場合は、回転数を上げて出力を合わせる方法もあります。日立金属は、後述の設計例で、この考え方を示しました。

引用元:三菱電機技報 Vol.83 No.10「回転機の高性能化による環境負荷低減」(2009年) https://www.giho.mitsubishielectric.co.jp/giho/pdf/2009/0910103.pdf

引用元:日立評論 2015年6月-7月号「国際高効率規格IE5レベルを達成したアモルファスモータ」 https://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/2015/06_07/2015_06_07_07.pdf

モーターのサイズが変わる

磁力の高い磁石を使うと、必要な磁束を小さな磁石で確保できます。出力を維持したまま小型化したいという課題では、ネオジム磁石が候補の1つです。

磁力の低い磁石でも、設計次第で差は縮まります。Motor-Fanの記事(2022年12月12日)によると、日立金属は高性能フェライト磁石の設計例を示しました。磁石の搭載位置とサイズを最適化した例です。ネオジム磁石を使うxEV用駆動モーターと同等の出力が、一定の条件下で得られるという内容です。

設計例には2通りがあります。1つは、モーター重量が30%増えても同等の出力を得る例です。もう1つは、回転数を50%上げて、重量と出力を同等にする例が示されています。

明電舎の「高性能フェライト磁石モータの開発」(2013年)には、希土類磁石とフェライト磁石の比較があります。残留磁束密度は、希土類磁石が1.30T、フェライト磁石が0.45Tです。同資料は、従来の希土類磁石を使うIPMモーターと同じ体格・質量で、同等のトルク特性を確認したと報告しています。

引用元:明電舎「高性能フェライト磁石モータの開発」明電時報 通巻341号(2013年) https://www.meidensha.co.jp/rd/rd_01/rd_01_02/rd_01_02_15/rd_01_02_15_01/pdf/article-201304-0061.pdf

効率が変わる

三菱電機技報(2009年)には、鎖交磁束を増やすと銅損を減らせるという記載があります。磁束を増やす方法の1つが、永久磁石の高グレード化です。同じトルクを得るための電流が小さくなれば、巻線で発生する熱も減ります。

磁石を回転子に埋め込むIPMモーターは、励磁電流を流す必要がありません。同技報は、回転子の損失がないため、誘導モーターより高効率化できると説明しています。

効率は、磁石の種類だけでは決まりません。日立評論(2015年)には、フェライト磁石を用いたアキシャルギャップ型モーターが、IE4効率クラスを満たした結果の記載があります。巻線、鉄心の材質、形状も、効率を左右する要素です。

引用元:三菱電機技報 Vol.83 No.10「回転機の高性能化による環境負荷低減」(2009年) https://www.giho.mitsubishielectric.co.jp/giho/pdf/2009/0910103.pdf

使用できる温度範囲が変わる

磁石は、温度が上がると保磁力が下がります。不可逆減磁が起きるのは、磁石にかかる逆向きの磁界が保磁力を超えたときです。冷やしても磁力は戻りません。

大同特殊鋼の技術資料(電気製鋼 第93巻第1号、2022年)に、数値の例があります。試験の対象は、重希土類フリーの熱間加工Nd-Fe-B磁石を使う、ハイブリッド車用の埋込磁石同期モーターです。通電条件は、180Arms、位相角90°、1秒間です。磁石温度が135℃のとき減磁率は-1.6%、143℃で-4.2%、152℃で-9.0%でした。17℃の上昇で、減磁率が5倍以上に拡大しています。

同資料は、JISの許容減磁量5%を目安にしています。この数値は、特定の磁石とモーターと通電条件の組み合わせで得た結果です。すべてのモーターに当てはまる基準ではありません。

JSTの発表(2014年3月26日)によると、ハイブリッド自動車の駆動モーターは、使用中に200℃程度まで温度が上がります。高温用途のネオジム磁石に必要な保磁力は、室温で3T、200℃で0.8T程度です。耐熱性を高めるジスプロシウムの使用量は、8%程度とされています。

引用元:大同特殊鋼「自動車駆動用埋込磁石同期モータにおける高温下のロータ磁石の不可逆減磁現象の解析と評価法」電気製鋼 第93巻第1号(2022年6月 https://www.daido.co.jp/common/pdf/pages/technology/journal/93_1/06_technicaldata04_hinata.pdf

モーターのコストが変わる

磁石の材料費は、磁石の種類によって変わる項目です。ネオマグの解説では、フェライト磁石は酸化鉄が主成分のため、安価に製造できます。日立金属の研究者による資料にも、フェライト磁石は低コストという記述があります。

ネオジム磁石の高温用途で使う重希土類は、調達面にも課題がある材料です。ジェイテクトの技術資料は、ジスプロシウムとテルビウムの採掘地が局在しており、供給量が不安定になる調達リスクがあると記載しています。同資料は、コストへの影響度が高い磁石使用量を、当初より約20%減らした開発例も示しました。

材料費が低い磁石を選ぶと、同じ出力を得るために、モーターが大きくなる場合があります。前述の日立金属の設計例では、重量が30%増えています。磁石の単価だけでなく、モーター全体の体格、質量、効率を含めた比較が必要です。

引用元:Motor-Fan「日立金属がxEV駆動モーター用高性能フェライト磁石の提案を開始」(2022年12月12日) https://motor-fan.jp/?p=27383

引用元:日立金属 機能部材研究所「粒界近傍の微細組織が保磁力に及ぼす影響の解析 -CaLaCo系M型フェライトの高性能化」(文部科学省 元素戦略プロジェクト資料) https://www.mext.go.jp/elements-strategy/pdf/04-P23.pdf

引用元:JTEKT ENGINEERING JOURNAL「レアアースの使用を抑えた重希土類フリーモータの開発」 https://www.jtekt.co.jp/engineering-journal/assets/1017/1017_10.pdf

ネオジム・フェライト・サマリウムコバルトの違いを比較

下の表は、マグファインが公開する比較表の数値と、ネオマグの解説の記述を、3種の磁石について並べたものです。数値は特定の材料・等級のカタログ値で、メーカーや等級によって変わります。「上限工作耐熱温度」は、モーターの設計温度とは別の数値です。

項目 ネオジム磁石 フェライト磁石 サマリウムコバルト磁石
残留磁束密度 Br(T) 1.26以上 0.385 1.03以上
保磁力 iHc(kA/m) 955以上 235以上 1190以上
最大エネルギー積 (BH)max(kJ/m³) 260以上 27.9以上 140以上
上限工作耐熱温度(℃) 80 300 200
キュリー温度(℃) 310 450〜460 710
密度(g/cm³) 7.3〜7.5 4.8〜5.0 8.3
耐食性(ネオマグの解説) 錆びに弱く、メッキ加工が多い 錆びに強い 錆びにくい
用途の例 ハイブリッド車・電気自動車の駆動モーター、電動パワーステアリング(希土類磁石の用途として) スピーカー、ヘッドホン、テレビ、ゲーム機、パソコン センサー、精密電子機器、医療機器

引用元:株式会社マグファイン「磁石の特性比較について」 https://www.magfine.co.jp/jpn/c_magnet/comparison.html

引用元:ネオマグ「種類によって変わる磁石の特徴とその用途について」 https://www.neomag.jp/mag_navi/column/column002.html

引用元:コトバンク「希土類磁石」 https://kotobank.jp/word/%E5%B8%8C%E5%9C%9F%E9%A1%9E%E7%A3%81%E7%9F%B3-161497

表の読み方を整理します。

磁石だけでモーターの性能は決まりません。前述の日立金属や明電舎の例のように、磁石の配置、形状、磁気回路の設計で、磁力の低い磁石でも出力やトルクを近づけられます。数値は、候補を絞るための一次情報として使います。

キュリー温度は、磁気秩序が失われる転移温度です。キュリー温度までモーターで使えるという意味ではありません。サマリウムコバルト磁石の上限温度は、マグファインの表では200℃、Magnet Expertの解説では250℃以上と、値が一致していません。

モーターの磁石はどうやって選ぶ?

磁石の選定は、必要な仕様を数値で並べるところから始まります。永久磁石を使わない方式のモーターもあります。ローターに永久磁石も巻線もないスイッチトリラクタンスモーター(SRモーター)です。永久磁石モーターを前提にする場合は、次の5つの観点で候補を絞ります。

必要なトルク・出力から選ぶ

最初に整理するのは、必要トルク(N·m)、回転数(min⁻¹)、出力(W)の3つの値です。出力はトルクと回転速度の積のため、2つが決まれば残りの1つは計算で求まる関係です。

連続運転と瞬間的な最大負荷では、必要なトルクが別の値になります。両方の値を、メーカーへの問い合わせ時に伝えます。トルクが不足する場合の対策は、磁力の高い磁石への変更と、回転数を上げて出力を合わせる方法の2つです。

モーターのサイズから選ぶ

モーターの寸法は、機器側の制約で決まります。確認する寸法は、設置スペース、外径、全長、軸寸法、取付寸法の5つです。

外径と全長に余裕がない場合は、磁力の高いネオジム磁石が候補です。余裕がある場合は、フェライト磁石で必要な出力を満たせるか、メーカーに設計例を確認します。日立金属の例では、重量が30%増える設計でした。質量の上限値も、あわせて伝えます。

使用温度から選ぶ

確認する温度は、周囲温度、モーター内部温度、連続運転時の磁石の温度の3つです。周囲温度が低くても、連続運転で巻線が発熱すると、磁石の温度は上がります。

大同特殊鋼の資料では、恒温槽の設定温度に対して、磁石側の表面温度が16〜18℃低い値でした。設定温度と磁石の温度は、一致しません。磁石の上限工作耐熱温度を満たすだけでは足りないため、磁石メーカーとモーターメーカーに、温度ごとの減磁曲線を問い合わせます。

引用元:大同特殊鋼「自動車駆動用埋込磁石同期モータにおける高温下のロータ磁石の不可逆減磁現象の解析と評価法」電気製鋼 第93巻第1号(2022年6月) https://www.daido.co.jp/common/pdf/pages/technology/journal/93_1/06_technicaldata04_hinata.pdf

効率・消費電力から選ぶ

効率は、定格運転点での値を確認します。確認する項目は、定格トルクでの電流(A)、電圧(V)、入力電力(W)、効率(%)です。

同じトルクを小さい電流で出せるモーターは、銅損が小さくなります。効率は、磁石以外の設計にも左右される値です。複数の機種を比べる場合は、同じ運転条件での値を並べて確認します。

コスト・調達性から選ぶ

磁石の単価に加えて、モーター全体のコストも確認対象です。確認する項目は、磁石の使用量、モーターの質量、必要な年間数量、納期です。

ネオジム磁石の高温グレードは、重希土類を使います。ジェイテクトの資料が示す調達リスクがあるため、供給元と数量の見通しを、メーカーと共有しておきます。サマリウムコバルト磁石の価格については、本記事で確認できた公開資料に比較値がありません。見積の段階でメーカーに確認します。

まとめ

モーターの磁石の違いを、本記事の内容で整理すると次のとおりです。

メーカーへ問い合わせる前に、必要トルク、回転数、出力、外形寸法、質量の上限、周囲温度と磁石の温度、年間数量を整理しておくと、検討が進みます。

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