産業機械や設備の設計・購買では、搭載するモーターに必要なトルクをあらかじめ見積もることが重要です。トルクの計算を誤ると、モーターが負荷を動かせなかったり、必要以上に大きなモーターを選定してコストが増えたりする可能性があります。
本記事では、モーターのトルクを求める基本的な計算式と具体的な計算例を紹介します。さらに、実際のモーター選定で考慮すべき負荷トルク、加速トルク、安全率、始動時のトルク、減速機を使用する場合の考え方についても解説します。
トルクとは、回転軸のまわりに物体を回転させようとする作用(力のモーメント)です。単位にはニュートンメートル(N・m)が使われます。
力の大きさをF、回転軸から力の作用点までの距離をr、力と位置ベクトルのなす角をθとすると、トルクの大きさは次の式で表されます。
T(N・m)=F(N)×r(m)×sinθ
力が回転軸からの方向に対して直角に作用する場合は、sinθ=1となるため、次の簡略式で計算できます。
T(N・m)=F(N)×r(m)
つまり、同じ力でも回転軸から離れた位置に作用するほど、発生するトルクは大きくなります。
トルクの特性や制御方法については、DCモーターのトルクもあわせてご覧ください。
1つ目は、回転軸に作用する力と、その力の作用点までの距離からトルクを求める方法です。
力が回転方向に対して直角に作用する場合、計算式は次のとおりです。
T(N・m)=F(N)×r(m)
Tはトルク、Fは力、rは回転軸から力の作用点までの距離を表します。
例えば、回転軸から0.2m離れた位置に50Nの力が回転方向に対して直角に加わる場合、トルクは次のように求められます。
50×0.2=10N・m
この計算は、アームやレバーなどの機構に作用する力から、回転軸に必要なトルクを見積もる場合に利用できます。
なお、力が回転方向に対して直角ではない場合は、T=F×r×sinθを使用します。力が回転軸方向に向いている場合など、回転させる方向の力がないときは、トルクは小さくなり、回転軸を通る方向に力が作用すればトルクは0になります。
2つ目は、モーターの機械的な出力と回転速度からトルクを求める方法です。
出力PをkW、回転速度Nをrpm(r/min)で表す場合、トルクTは次の式で求められます。
T(N・m)=9550×P(kW)÷N(rpm)
Tはトルク、Pは機械的な出力、Nは回転速度を表します。
この式は、機械的出力が「トルク×角速度」で表される関係から導かれます。モーターの定格トルクを求める場合は、原則として定格出力と定格回転速度を使用します。
なお、カタログに記載されている回転速度には、同期速度、無負荷回転速度、定格回転速度などがあります。どの回転速度を使用するかによって計算結果が変わるため、モーターの仕様表を確認することが重要です。
定格出力5.5kW、定格回転速度1500rpmのモーターを例に計算します。
T=9550×5.5÷1500
=約35.0N・m
この計算例では、定格出力を発生しているときのトルクを約35.0N・mと求められます。
同じ出力で比較すると、回転速度が低いほど必要なトルクは大きくなります。反対に、同じトルクであれば、回転速度が高いほど大きな機械的出力を得られます。
アームの先端に取り付けた搬送物を持ち上げる場合を想定します。搬送物の質量を5kg、搬送物の重心が回転軸から0.3mの位置にあるとします。
重力加速度を9.8m/s²とすると、搬送物に作用する重力は次のように求められます。
F=5×9.8=49N
重力がアームに対して直角に作用する姿勢で、回転軸から重心までの距離が0.3mの場合、重力による負荷トルクは次のとおりです。
T=49×0.3=約14.7N・m
したがって、この条件では、搬送物の重力によって回転軸に生じる静的な負荷トルクは約14.7N・mです。
ただし、これは搬送物だけを考えた簡易計算です。実際のモーター選定では、アーム自体の重量、摩擦、加速に必要なトルク、機構の慣性、減速機などの影響も考慮する必要があります。
モーターを一定速度で回転させる場合と、停止状態から目標速度まで加速させる場合では、必要なトルクが異なります。
一定速度で運転する場合は、主に搬送物の重力、摩擦、機械的な抵抗などによって生じる負荷トルクを考えます。一方、加速時には、これらの負荷に加えて、回転部や搬送物を加速するためのトルクも必要になります。
そのため、実際の選定では、単純に静的な負荷トルクだけを計算するのではなく、運転条件に応じて加速トルクも確認することが重要です。
計算した負荷トルクとモーターの仕様を比較する際には、負荷変動や摩擦、計算条件のばらつきなどを考慮して余裕を持たせることがあります。
ただし、安全率を「必ず1.5倍」「一般的に2倍」と一律に決められるわけではありません。必要な余裕は、負荷の変動、加減速条件、運転サイクル、機械の構造、モーターの種類などによって異なります。
簡易的な検討では安全率を設定する場合がありますが、実際の設備設計では、モーターやメーカーが定める選定基準を確認し、必要トルクに対して十分な余裕があるかを判断することが重要です。
モーターを停止状態から動かす場合、負荷の静摩擦や加速の影響などによって、運転中より大きなトルクが必要になる場合があります。
一方、モーター側の始動トルクは、モーターの種類や構造によって異なります。そのため、「始動トルクは定格トルクの何%」と一律に考えるのではなく、対象モーターの仕様表や速度―トルク特性を確認する必要があります。
特に、起動時に大きな負荷がかかる機械では、定格運転時のトルクだけでなく、起動時にモーターが発生できるトルクが負荷を上回るかを確認することが重要です。
必要な出力回転速度がモーター単体では適さない場合、減速機を組み合わせることで、回転速度を下げながら出力軸のトルクを増やせます。
減速機の減速比をi、伝達効率をηとすると、理想化した場合の出力軸トルクは、おおむね次の式で求められます。
出力軸トルク ≒ モーター軸トルク×減速比×伝達効率
例えば、モーター軸のトルクが10N・m、減速比が5、伝達効率が90%の場合、出力軸トルクは次のようになります。
10×5×0.9=45N・m
この場合、出力軸の回転速度はモーター軸の約1/5になります。
ただし、減速比を大きくすれば無制限に出力トルクを増やせるわけではありません。実際の選定では、減速機の許容トルク、最大許容負荷、効率、必要な出力回転速度なども確認する必要があります。
ここまで紹介した計算式は、モーターのトルクを理解するための基本的な考え方です。ただし、実際の選定方法はモーターの種類によって異なります。
例えば、ACモーター、ブラシレスモーター、サーボモーター、ステッピングモーターでは、トルク特性や仕様の表し方、選定時に確認する項目が異なります。
特にステッピングモーターでは、一般的なACモーターなどとは異なり、定格出力を仕様として設定しない製品もあります。そのため、「定格出力と回転速度からトルクを計算する方法」をすべてのモーターにそのまま適用できるわけではありません。
実際にモーターを選定する際は、対象となるモーターのメーカーが公開している仕様や選定方法を確認することが重要です。
モーターのトルクは、力と回転軸からの距離から求める方法と、機械的な出力と回転速度から求める方法があります。
力からトルクを求める場合、力が回転方向に対して直角に作用するときは「T=F×r」、一般的には「T=F×r×sinθ」で表されます。
また、機械的な出力PをkW、回転速度Nをrpmで表す場合は、「T=9550×P÷N」でトルクを求められます。
ただし、実際のモーター選定では、静的な負荷トルクだけでなく、加速トルク、摩擦、負荷変動、運転条件なども考慮する必要があります。安全率も一律の数値を適用するのではなく、用途やメーカーの選定基準に応じて設定することが重要です。
また、始動トルクはモーターの種類や構造によって異なるため、定格トルクに対する割合だけで判断せず、仕様表や速度―トルク特性を確認しましょう。
標準品のカタログスペックだけでは、必要なトルクや回転速度などの条件を満たせないケースもあります。その場合は、用途に合わせたカスタム設計に対応できるモーターメーカーへの相談も選択肢の一つです。