モーターには様々な種類がありますが、その中でも近年、希土類磁石(レアアース)を使わないモーターとして注目を集めているのが「スイッチトリラクタンスモーター(SRモーター)」です。SRモーターとは何か、その基本的な仕組みから、長所・短所、実用化の背景までを分かりやすく解説していきます。
スイッチトリラクタンスモーター(以下SRモーター)とは、電磁石の力で鉄の回転子(ローター)を引っ張り、回転させるモーターです。
特徴は、そのシンプルな構造にあります。一般的なモーターの回転子には永久磁石や電線を巻いたコイルが使われていますが、SRモーターの回転子は珪素鋼板の積層でできています。永久磁石もコイルも持たないため、構造が非常に単純で丈夫です。
回転子に磁石もコイルも無いのに回るポイントは、リラクタンスという言葉にあります。リラクタンスとは「磁気抵抗」のことで、磁力の通りにくさを表します。磁力(磁束)は、リラクタンスが最も小さくなる経路、つまり一番磁力が通りやすいルートを流れようとする性質があります。
コイルのON/OFFを切り替えて(スイッチして)、リラクタンスが小さくなる力で回転させるという動作を高速で繰り返すことで、SRモーターは回り続けます。
SRモーターには、そのユニークな構造から多くのメリットが生まれます。
回転子に磁石やコイルといった壊れやすい部品がないため、衝撃や振動に強く、機械的に非常に丈夫です。また、回転子自身が発熱しないため、高温環境下での運転にも適しています。
高価なレアアース(ネオジム磁石など)を一切使用しません。材料が鉄と銅が中心で、構造もシンプルなため、安価に製造することができます。資源価格の変動リスクが少ない点も大きなメリットです。
回転子の構造が単純で頑丈なため、遠心力に強く、毎分10万回転を超えるような超高速回転にも耐えることができます。
一部のコイルが故障しても、運転を継続できる場合があります。また、磁石を使わないため、磁石の性能劣化による効率低下がなく、広い速度範囲で高い効率を維持可能です。
多くの長所を持つSRモーターにも課題もあります。
回転子を断続的に引っ張って回すという原理上、回転がカクカクするトルク脈動が起こりやすくなります。滑らかな回転を妨げる一因です。
トルク脈動や、電磁石が回転子を引っ張る際に発生する半径方向の力が、特有の騒音や振動の原因です。特に低速での運転時に目立ちます。
滑らかに回転させ、騒音を抑えるためには、回転子の正確な位置をセンサーで検出し、電流を流すタイミングや波形を非常に精密にコントロールする必要があります。
SRモーターの基本的な原理は古く、1838年には最初のモデルが製作されています。しかし、その性能を最大限に引き出すために不可欠な「高速で精密な電流のスイッチング技術」が当時は存在しませんでした。
この状況が大きく変わったのが20世紀後半です。パワーエレクトロニクス技術の飛躍的な進歩により、高性能な半導体(トランジスタなど)や安価で強力なマイクロプロセッサが登場しました。これらを用いることで、SRモーターが要求する複雑な制御が現実のものとなり、その長所が見直されるきっかけとなったのです。
SRモーターは、その構造によっていくつかの種類に分類されます。それぞれの特徴を見ていきましょう。
最も一般的なのはラジアルギャップ型です。これは、円筒状の回転子の外側に固定子を配置する、多くのモーターでみられる基本的な構造です。
ディスク状の回転子と固定子が、回転軸方向に重なるように配置されたタイプです。薄型化や高トルク化に適しているとされ、電気自動車(EV)のインホイールモーターなどへの応用が期待されています。
回転運動ではなく、直線運動を行うSRモーターです。回転型を平面に展開したような構造をしています。
スイッチトリラクタンスモーターは、「構造がシンプルで丈夫、そして安価」という大きなポテンシャルを秘めたモーターです。騒音や制御の難しさといった課題も、近年の技術革新によって着実に克服されつつあります。
レアアースを使わないという点は、資源の安定確保や環境負荷低減の観点から非常に重要であり、ダイソンの掃除機などに採用された例を筆頭に、洗濯機やポンプ、さらには電気自動車(EV)まで、その応用範囲は広がり続けているモーターです。