モーターの耐熱クラスは、電気絶縁システムに対して推奨される最高連続使用温度を示す区分です。代表的なクラスでは、B種が130℃、F種が155℃、H種が180℃です。
ただし、耐熱クラスの温度と、モーターの運転中に許される温度上昇限度は同じものではありません。温度上昇限度は、周囲温度などの基準条件から巻線などの温度がどこまで上昇することを許容するかを示す値で、測定方法や適用する製品規格によって異なります。
本記事では、機器にモーターを組み込む設計・開発担当者向けに、耐熱クラスの意味、最高連続使用温度、温度上昇限度の違い、F種Bライズ、周囲温度や標高、インバータ駆動時の確認事項を解説します。
耐熱クラスについてはJIS C 4003:2010、回転電気機械の定格・特性についてはJIS C 4034-1:2023、一般用低圧三相かご形誘導電動機についてはJIS C 4210:2010(追補を含む)などが関係します。実際の設計では、適用する規格とメーカーの仕様書を確認してください。
耐熱クラスは、電気絶縁システムについて、推奨される最高連続使用温度を示す区分です。資料によっては「絶縁階級」と呼ばれることもあります。
JIS C 4003:2010「電気絶縁-熱的耐久性評価及び呼び方」は、電気絶縁材料(EIM)と電気絶縁システム(EIS)を区別しています。モーターの巻線では、単一の絶縁材料だけでなく、導体被覆、絶縁テープ、含浸材などを組み合わせた絶縁システムとして評価することが重要です。
そのため、「使用している絶縁材料のうち、最も耐熱性の低い材料によってモーター全体の耐熱クラスが決まる」と単純に考えることはできません。絶縁システムの耐熱クラスは、材料の組み合わせや使用実績、機能評価試験などを踏まえて決定されます。
また、絶縁材料単体に表示される温度クラスと、モーターなどの機器に組み込まれた絶縁システムの耐熱クラスは、同じ意味ではありません。
JIS C 4003では、耐熱クラスを数値で呼びます。従来から使用されてきたY種、A種、E種、B種、F種、H種などの記号と対応させて説明されることがあります。
引用元:JIS C 4003 : 2010 電気絶縁-熱的耐久性評価及び呼び方 https://kikakurui.com/c4/C4003-2010-01.html
| 耐熱クラスの呼び方 | 従来の記号 | 最高連続使用温度(℃) |
|---|---|---|
| 90 | Y種 | 90 |
| 105 | A種 | 105 |
| 120 | E種 | 120 |
| 130 | B種 | 130 |
| 155 | F種 | 155 |
| 180 | H種 | 180 |
| 200 | N種 | 200 |
| 220 | R種 | 220 |
| 250 | ― | 250 |
ここで示している温度は、モーターの運転中に巻線温度が常にこの温度まで上昇してよい、という意味ではありません。実際のモーターでは、適用する製品規格によって温度上昇限度が別途定められています。
たとえば、一般用低圧三相かご形誘導電動機を対象とするJIS C 4210では、温度上昇限度についてE種、B種、F種が規定されています。したがって、「モーターには必ずA・E・B・F・Hの5種類が規格上設定されている」と一括りにするのではなく、対象となるモーターの規格を確認する必要があります。
引用元:絶縁材料の耐熱クラス(A種、B種など)や材料の加工について解説します | 岸本工業 https://kishimotokogyo.co.jp/archives/insulating-heatproof-temperature/
耐熱クラスと温度上昇限度は、関連していますが同じものではありません。
耐熱クラスは、絶縁システムについて推奨される最高連続使用温度を示します。一方、温度上昇限度は、基準となる周囲温度や冷却媒体温度などに対して、モーターの各部がどこまで温度上昇してよいかを示す値です。
温度上昇限度の単位にはK(ケルビン)が使われます。温度差については1Kと1℃の差が同じため、たとえば温度上昇80Kは、温度差80℃に相当します。
たとえばB種の最高連続使用温度は130℃です。基準周囲温度を40℃とすると、単純な温度差は130℃−40℃=90Kになります。
しかし、これは「B種モーターの温度上昇限度が必ず90K」という意味ではありません。実際の温度上昇限度は、適用する製品規格、測定方法、モーターの種類や出力などによって規定されます。
たとえばJIS C 4210では、一般用低圧三相かご形誘導電動機の固定子巻線について、B種の温度上昇限度として80Kが規定されています。したがって、設計や仕様確認では、耐熱クラスの温度から単純計算した値ではなく、対象となる製品規格の温度上昇限度を確認することが重要です。
回転電気機械では、巻線温度をどのように測定するかによって、規定される温度上昇限度が異なる場合があります。
代表的な方法には、抵抗法、埋込温度計法、温度計法などがあります。抵抗法では、巻線の抵抗値の変化から平均的な温度上昇を求めます。埋込温度計法では、巻線などに温度センサを配置して温度を測定します。
したがって、仕様書の温度上昇限度を確認するときは、数値だけでなく、どの規格に基づく値なのか、どの測定方法を使用しているのかも確認します。
なお、JIS C 4034-1については、1999年版が2023年版に改正されています。現在の設計で回転電気機械の一般的な定格・特性を確認する場合は、現行のJIS C 4034-1:2023を参照してください。
モーターを選定するときは、耐熱クラスだけを見るのではなく、次の項目を整理します。
特に重要なのは、「F種だから温度上昇を105Kまで許容できる」「B種だから必ず90Kまで許容できる」といった単純な判断をしないことです。耐熱クラスは絶縁システムの最高連続使用温度を示すものであり、実際の温度上昇限度は適用する製品規格や仕様によって確認します。
モーターを設置したあとは、運転状態に応じて温度、振動、異音などを点検します。
設計段階で適切な耐熱クラスや温度上昇限度を選定していても、冷却不良、過負荷、軸受の異常、周囲温度の上昇などによって実際の運転条件が変化することがあります。
そのため、定期的な点検・保守によって、設計時に想定した条件から外れていないかを確認することが重要です。
標準品が設置条件や性能要件に合わない場合は、モーターの用途、周囲温度、負荷、駆動方式、必要な保護等級などをメーカーに伝え、適切な仕様の製品を選定します。